top of page
執筆者の写真KeidanrenSDGs

中西経団連会長スピーチ/朝日地球会議2018

更新日:2022年2月7日

朝日地球会議2018における中西会長スピーチ

「Society 5.0 for SDGs」


写真提供:朝日新聞社

 本日は、経団連の活動を紹介する貴重な機会を頂きました。そこで経団連のSociety 5.0 for SDGsという取り組みと、その背景、具体的な活動内容について紹介いたします。




■デジタル化とグローバル化の加速、不確実な社会

 SDGsは抽象的かつ高い目標です。しかし最近の社会情勢を見ていると、多くの人がSDGsを考えていかなければならなくなっています。この1年間を振り返ってみても、1年前には全く考えられなかったことが幾つも起きています。このような不確実な時代の背景には、デジタル化とグローバル化の進展があります。経営の観点では、企業は「デジタルトランスフォーメーション」に直面しています。これは、蒸気機関、モーター、情報技術の革新に続く、第4次産業革命(Industry 4.0)と言われており、企業活動が根本的に変わると予想されます。またグローバル化に伴い、市場やサプライチェーンも変えていく必要があります。

 こうした中で、単純に経済活動のみを拡大するというアプローチでは長期的に上手くいかなくなります。企業も常に持続可能性を考え、あらゆる価値そのものを考え直していく必要があります。技術や産業のみに焦点を当てるのではなく、デジタル化やグローバル化をどのように最大限活用していくべきかを考えていく必要があります。私達はそのコンセプトを「Society 5.0」と呼んでおります。






■ Society 5.0とは

 人類の経済社会の発展の歴史を振り返ってみると、「狩猟社会」から始まり、次に「農耕社会」が形成され、そして産業革命による「工業社会」が実現しました。工業社会においても豊かさがもたらされましたが、インターネットの発展によって実現した「情報社会」では、工業社会とは全く違った生活、社会となりました。

 この先の未来はどうなるでしょうか。現段階で明確に「Society 5.0はこうした社会だ」と申し上げることは困難です。なぜなら、この先の未来はこれから皆で創りあげていく社会だからです。しかし、その過程では、今一度、多くのことを見直していかなければなりません。特に、技術や産業を、より人間的な社会の形成に役立たせていくことが不可欠です。そのコンセプトこそ「Society 5.0」なのです。



■ 個別最適から全体最適へ

 「Society 5.0」は、個別最適ではなく、全体最適を考えていくという点で、これまでの考え方とは大きく異なります。個別最適とは、ある1点に着目し、それを改善しようと取り組むことです。これを製造業の観点で置きかえると、企業側の視点のみで良いモノをつくっていくことと言えます。しかし、モノからコト消費、所有からシェアなど、多様化、自律分散化した経済活動が行われる環境の中で、個別最適の観点のみでつくられたモノは、社会から求められていません。このように整理すると、Society 5.0はSDGsと軌を一にしていると言えます。





■ Society 5.0 for SDGs

SDGsは、2015年に国連で定められた、社会的包摂、経済成長、環境保護、パートナーシップの観点から、17の目標、169のターゲットからなる具体的なゴールです。企業には、これらの課題をデータによって可視化し、課題解決に向けて具体的に取り組んでいくことが求められます。これが本日のテーマである「Society 5.0 for SDGs」の考え方です。

 特に日本は、少子高齢化、それに伴う長期的な低成長、自然保護などSDGsが指し示すような多くの課題を抱えた課題先進国と言われています。しかし、多くの課題を抱える日本だからこそ、「Society 5.0 for SDGs」を進めることで、課題解決先進国になるチャンスがあります。これは世界から日本に期待されていることであり、日本から国際社会への貢献とも考えられます。



■ さまざまな基盤技術とイノベーションエコシステムが必要

 ただしSociety 5.0 for SDGsの実現には、まだ様々な「壁」が残されています。まずはIoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)などの「基盤技術」の発展です。新たな価値創造を図るSociety 5.0 for SDGsの課題は技術的なものだけではありませんが、社会活動をデータ化していく、最適化を図っていくためには基盤技術の発展が大前提となります。もし様々な事象をデータ化して可視化することができれば、多くの人が社会的課題を容易に把握できるだけでなく、共通認識が得られるようになり、次の解決策に向かって一緒に進んでいくことができると考えます。

また基盤技術を最大限活用し、新しい社会の基盤をつくりあげていく「イノベーション」が求められています。これは、単に効率向上を図るイノベーションではなく、人間の役に立つ社会をつくるイノベーションを意味しています。このイノベーションの主役は、企業、大学・研究開発法人、ベンチャーをはじめ、創造性豊かな皆様です。各々の主体が、円滑にコミュニケーションを行い、相互に連携していくことが「Society 5.0 for SDGs」実現のカギとなっています。





■ Society 5.0時代のヘルスケア

 ここでSociety 5.0の一例として、「Society5.0時代のヘルスケア」という提言の概略を紹介します。日本は全国民が健康保険に加入しているため、技術的には診療データを集めることが可能です。仮に、個人情報の保護を前提として、様々なヘルスケアのデータを上手く活用するとともに、ゲノム検査やバイオテクノロジーなど基盤技術も発展させていければ、新しい医療の形をつくりあげることができます。

 例えば、現在は罹患したので治療を受けるというのが一般的な考え方ですが、Society 5.0時代のヘルスケアでは、そもそも罹患しない未病・予防ケアが充実されると考えます。また仮に罹患した場合でも、これまでのような平均的な治療ではなく、個人の属性にあわせた多様な治療が行われると考えます。また、こうしたヘルスケアにより、健康寿命(健康的に活動できる期間)が延伸されれば、年々増大する社会保障費の削減にもつながります。Society 5.0時代のヘルスケアの実現は、日本にとっても、世界にとっても大きな可能性を秘めていると思います。




■ 企業行動憲章の改定―持続可能な社会の実現―

 そうした中、経団連では、経済界全体で「Society 5.0 for SDGs」の実現を図るため、昨年11月、経団連会員企業の行動原則である「企業行動憲章」を改定しました。

 新たな憲章の基本的な考え方は、従来のCSRへのアプローチである、「企業活動によって発生するネガティブな影響を打ち消すために社会貢献を行う」とは一線を画します。新しいアプローチでは、SDGs達成という観点から、「企業は持続可能な社会を牽引する役割を担う」と考えることを求めています。その実現を図る上での具体的な行動原則を、憲章では10の条文で示しています。

 こうした話をすると、「まさか企業がそんなことを考えるはずがない」と思う人もいるかもしれません。しかし、企業にとって、事業活動の最大の基盤は、地球が平和で安定し持続可能であることです。新たに制定した憲章は、多くの会員企業からポジティブな反応が返ってきており、今後の展開に期待をしております。






■ イノベーション事例集・特設ウェブサイト、経済団体等との連携

Society 5.0 for SDGsの推進の一環として、本年7月、企業のSDGs達成に向けたイノベーション事例集「Innovation for SDGs - Road to Society 5.0」の日本語版、英語版を公表しました。またイノベーション事例を多くの方に見て頂くことができるよう、経団連SDGs特設サイトも公表しています。様々な企業活動がSDGsのどの目標に役に立つのかということを整理して、分かりやすい形に示しているので、「なるほど、企業の行動原理がこういう風に変わってきた」と感じることができるかと思います。

 またSDGs達成に向けた取り組みは、日本だけでなく世界のあらゆる企業や団体、機関との連携が不可欠です。例えば、ICC(国際商業会議所)やWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)、USCIB(米国国際ビジネス協議会)の「Business for 2030」、あるいはG20/B20(世界20ヵ国のビジネス界の代表により会議)などとの連携を進めています。


 来年は日本がG20の議長国であり、経団連もB20の議長となります。経団連では、こうした機会も活かしつつ、多様なステークホルダーとの対話・連携を通じて、Society 5.0 for SDGsの実現、世界の課題解決に貢献してまいりたいと思います。引き続き、皆様の一層のご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。


以 上




Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page